更年期の「のぼせ」を、証で振り分ける

外来の一場面です。50歳前後の女性が「急に顔が熱くなって汗が噴き出す」「夜になると目が冴えて眠れない」と訴えて来られます。ホルモン補充療法(HRT)がよい適応であることも多い一方、乳癌や血栓症の既往で使いにくい方、あるいは「薬はできるだけ控えたい」という方もいます。そうしたとき、で選ぶ漢方をもう一手として持てると、診療の幅が広がります。

ただし順序は変わりません。まず西洋医学が先です。甲状腺機能亢進症・褐色細胞腫・不整脈・悪性腫瘍など、のぼせ・発汗・動悸をきたす器質疾患を除外したうえで、更年期障害としての訴えを証で読みます。

のぼせ・発汗は「気の上衝」として捉える

更年期ののぼせ(ホットフラッシュ)は、下半身は冷えるのに顔だけ火照る「冷えのぼせ」の形をとりやすく、漢方ではが上に突き上げる気逆上衝として捉えます。ここに、閉経前後のの不足血虚)、水分を保てずに火照る陰虚傾向煩熱)、気持ちの高ぶり(肝鬱)が重なります。読むべきは、この患者ののぼせが虚寄りか実寄りか、そして不眠・イライラが前景かどうかです。

① 多彩で変動する不定愁訴+疲れやすい(虚〜中間)→ 加味逍遙散

のぼせ・発汗に加え、訴えが日替わりで多彩、イライラと疲れやすさが同居し、体格はどちらかといえば華奢。気滞に肝の高ぶりと血虚が重なった像で、更年期の第一選択に近い位置にあるのが加味逍遙散です。

② のぼせ・めまい・動悸など神経症状が前景 → 女神散

のぼせ・のぼせ感にめまいや動悸を伴い、更年期や産後の多彩な神経症状が中心。気血の乱れとのぼせの像には女神散が合いやすく、①と似て非なる使い分けになります。

③ 比較的体力があり動悸・不安・不眠・便秘(実)→ 柴胡加竜骨牡蛎湯

がっちりして体力があり、動悸・不安・寝つきの悪さ、へその上の拍動感(臍上悸)、便秘傾向。これは気逆に実が重なった形で、柴胡加竜骨牡蛎湯が向きます。②③の分かれ目は虚実です。なお柴胡加竜骨牡蛎湯は、メーカーによっては大黄を含み瀉下活性をもつ点に留意してください。

④ のぼせと足の冷えが同居・瘀血の腹候 → 桂枝茯苓丸

のぼせと足の冷えがはっきり同居し、下腹部の圧痛など瘀血の腹候があれば、中間〜実証の瘀血として桂枝茯苓丸を考えます。

⑤ 冷えと乾燥傾向が目立つ → 温経湯

のぼせがあっても、冷え乾燥傾向が目立つ人がいます。手関節痛、手のほてり(手掌煩熱)、唇の荒れ――こうした所見が前面なら温経湯を考えます。血虚に寒と乾を伴う像で、更年期にも保険適応があります。

不眠は、不眠の証で分ける

眠れないという訴えも一律ではありません。イライラ・易怒や歯ぎしりを伴う高ぶりの不眠には抑肝散心身が疲れ果てて眠れない虚労タイプの不眠には酸棗仁湯が候補になります。不眠と不安があり、倦怠感が強く、食欲低下や貧血傾向を認める場合は、心脾両虚として加味帰脾湯とします。原則は単剤で選びますが、のぼせの処方に不眠の一手を少量、重ねることもあります。

まとめと注意

同じ「のぼせ・発汗・不眠」でも、加味逍遙散・女神散・柴胡加竜骨牡蛎湯・桂枝茯苓丸・温経湯と証で分かれ、不眠には抑肝散・酸棗仁湯・加味帰脾湯が候補になります。甲状腺・不整脈・悪性腫瘍などの器質疾患の除外が前提です。周閉経期は妊娠の可能性が残るため、桂枝茯苓丸(桃仁牡丹皮を含む)は妊娠の可能性を確認してから用います。加味逍遙散・女神散・抑肝散・酸棗仁湯・温経湯・加味帰脾湯には甘草が含まれ、浮腫・血圧上昇・低カリウム血症(偽アルドステロン症)に留意します。加味逍遙散・加味帰脾湯は山梔子を含み、長期投与では腸間膜静脈硬化症の報告があります。女神散・柴胡加竜骨牡蛎湯は黄芩を含み、薬剤性間質性肺炎・薬物性肝障害に留意して適切なモニタリングを行います。

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