「なんとなく不調」を、どこから読むか
外来で、こんな場面はないでしょうか。
「どこが、と言われると困るんですけど、なんとなく調子が悪くて」。検査には大きな異常がない。けれど患者さんは確かにつらそうで、月経のたびに、あるいは季節の変わり目に、決まって不調が強まる。西洋医学的な診断名がつきにくいこうした訴えこそ、証で読むと像を結びます。
問題は、その証をどこから確かめるかです。漢方には四診(ししん)という、四つの決まった入り口があります。特別な器械は要りません。すでに先生が毎日やっている診察を、証の軸へ翻訳するだけです。
四つの窓 ― 望・聞・問・切
- 望診(ぼうしん)=視る。顔色(血虚なら蒼白、瘀血ならくすみ・色素沈着)、むくみ(水滞)、舌の様子。歩き方や表情も情報です。
- 聞診(ぶんしん)=聴く・嗅ぐ。声の力(弱々しければ虚)、息づかい。
- 問診(もんしん)=問う。婦人科でもっとも豊かな窓。後で詳しく扱います。
- 切診(せっしん)=触れる。脈をみる脈診と、お腹をみる腹診。これは第6回・第7回で扱います。
四つはどれか一つで決めるものではなく、集めた所見を重ねて一点に置くためのものです。望で「顔色が悪い」、問で「月経量が少ない」、切で「腹力が弱い」と揃えば、血虚+虚という座標が確からしくなる、という具合です。
婦人科の問診 ― 何を、なぜ聴くか
婦人科・プライマリ・ケアの問診では、次の項目を証の軸に対応させて聴くと、訴えが座標に翻訳できます。
- 月経歴・月経の性状:周期、経血量、塊の有無、月経痛。塊や刺すような固定した痛みは瘀血、量が少なく色が淡いのは血虚を示唆します。
- LMP(最終月経)・妊娠可能性:これは証の判断であると同時に、安全性の前提です。妊娠中に注意・禁忌となる生薬(大黄・桃仁・牛膝・紅花など)があるため、方剤を選ぶ前に必ず確認します。
- 冷え:冷えで悪化し温めて楽になるかは寒の軸。手足の末梢か、腰から下か、体の芯かで深さを読みます。
- のぼせ・ほてり:上に熱が偏る上衝(気逆)のサイン。冷えとのぼせが同居する(下は冷え、上はのぼせる)状態は、瘀血や更年期の証でよくみられます。
- 便通:便秘+のぼせは実・瘀血へ、下痢しやすく冷えるのは虚・寒へ傾きます。
- 睡眠・気分:寝つけない・イライラ・気分の波は気の失調(気滞・肝の高ぶり)で、月経前に強まりやすい所見です。
一つひとつは日常の問診項目です。違うのは、答えを「症状のリスト」ではなく証の軸への手がかりとして並べ直す点です。
四診は座標を確かめる作業
四診は、当てものではありません。望で立てた仮説を、聞・問・切で確かめ、時に修正していく。四つの窓から同じ方向のサインが集まったとき、証という座標がはっきりします。次回はそのうち、婦人科でとりわけ物を言う腹診を、手で瘀血を読むという視点から見ていきます。